エリート外科医の一途な求愛
各務先生は右手を軽く掲げて、ヒラヒラと私に振っている。
「俺んチの、鍵。俺も仕事終わったら真っすぐ帰るから、先に帰ってて」
当たり前のように鍵の意味を説明されて、私はギョッとしながらその背を追った。
「ちょっと待ってってば! 私に渡されても困ります! これがなきゃ、先生家に入れないんじゃ……!」
「だから、先に帰ってろって言ってんの。俺を出迎えて」
「なっ……先生っ!」
更に追い掛けて、各務先生の白衣を掴もうとした。
そのまま鍵も返すつもりだったのに。
「ただいまでーす」
備品を乗せた台車を押した美奈ちゃんが、いきなりドア口に姿を現した。
まさにドアから出ようとしていた各務先生が、『わっ』と言って足を止める。
もちろん私も、彼の白衣に伸ばした手を、慌てて引っ込めた。
「あ、先生すみません! ぶつからなかったですか?」
出会い頭の各務先生に、美奈ちゃんが焦ったように謝るのを見ながら、私は鍵を握った手を無意味に背中に回して隠した。
「うん。平気。ご苦労様」
各務先生はまるで何事もなかったかのように美奈ちゃんに声を掛け、一度チラッと私に視線を投げてから医局から出て行ってしまった。
「俺んチの、鍵。俺も仕事終わったら真っすぐ帰るから、先に帰ってて」
当たり前のように鍵の意味を説明されて、私はギョッとしながらその背を追った。
「ちょっと待ってってば! 私に渡されても困ります! これがなきゃ、先生家に入れないんじゃ……!」
「だから、先に帰ってろって言ってんの。俺を出迎えて」
「なっ……先生っ!」
更に追い掛けて、各務先生の白衣を掴もうとした。
そのまま鍵も返すつもりだったのに。
「ただいまでーす」
備品を乗せた台車を押した美奈ちゃんが、いきなりドア口に姿を現した。
まさにドアから出ようとしていた各務先生が、『わっ』と言って足を止める。
もちろん私も、彼の白衣に伸ばした手を、慌てて引っ込めた。
「あ、先生すみません! ぶつからなかったですか?」
出会い頭の各務先生に、美奈ちゃんが焦ったように謝るのを見ながら、私は鍵を握った手を無意味に背中に回して隠した。
「うん。平気。ご苦労様」
各務先生はまるで何事もなかったかのように美奈ちゃんに声を掛け、一度チラッと私に視線を投げてから医局から出て行ってしまった。