エリート外科医の一途な求愛
その背中を、美奈ちゃんは振り返って見送っていたけど。


「ぶつからなくて良かった~。各務先生に怪我させたりしたら大変! 始末書もんですよね。……って、葉月さん……?」


ホッと胸を撫で下ろしていた美奈ちゃんが、私に向き直りながら訝しそうに眉をひそめた。


「なんかあったんですか? 顔、真っ赤ですけど」

「!!」


探るような声で指摘されて、私は慌てて頬に手を当てながら顔を背けた。


「な、なんでもない! あ~、今日もあっついねー」


はは、と空笑いで誤魔化しながら、私は急いでデスクに戻る。


「はあ……?」


まだ怪訝そうに首を傾げる美奈ちゃんに背を向けたまま、私は『ほらほら』と手を翳して見せた。


「美奈ちゃん、木山先生の試験採点、さっさと終わらせよう!」


ちょっと上擦った声になるのを自覚しながら、私は美奈ちゃんを促した。
『はーい』と返ってくる返事にホッとしながら、私は赤ペンを手に取る。


左手は、スカートのポケットに突っ込んだ。
そこに各務先生の部屋の鍵を忍ばせながらドキドキして、そんな自分への自己嫌悪に陥っていた。
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