エリート外科医の一途な求愛
「あっ……!」


その勢いで、私が持っていたグラスが床に落ちてしまう。
フローリングの床に残っていたモスコミュールと氷が流れ出るのを気にして、私は一瞬顔を伏せた。
けれど。


掴まれた腕を引っ張られ、手の平に温もりと鼓動を感じた。
自分の手がどこに着地させられたかわかり、ドッキーンと大きく胸が飛び跳ねるのがわかった。


「ちょっ、先生!」

「ほら。思う存分触って確かめろよ。葉月の手、ちゃんと俺に届くだろ。身体中、どこ触ってもいいから。その腕で囲い込んで、逃さないようにしてくれていいから」

「そんな、何を言って……」


手の平に感じる、各務先生の滑らかな肌。
ちょっと速い鼓動が伝わってきて、私のそれとシンクロする。
それだけでドキドキして、強く手を引っ込めようとした。
なのに。


「すごい男じゃなくなればいいのかよ? 何も出来ない、情けなくてみっともない男になれば、葉月は俺に堕ちるのかよ?」


奥歯を噛み締めるようにして言いながら、彼が私の肩に額をのせた。
頬を湿った前髪にくすぐられて、私の身体がピクンと震えた。


「イケメンだから嫌いって。本当はそういう意味もあったのか?」


掠れた声が、耳元で響く。
まるで心を鷲掴みにされたような気がして、私の胸がきゅうんと締め付けられる。
< 171 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop