エリート外科医の一途な求愛
「ち、違う。私はただ」

「ただ?」

「私だけって、わかりやすい人がいい、それだけで……」


そう言いながら、私は声を尻すぼみにして俯いた。


だってそれじゃ理由にならない。
各務先生が私に向けてくれる想いは、真っすぐで素直でわかりやすい。
それを否定してるみたいで、何かが違う。


「つまり……。葉月に納得させる為に、俺はもっと暴走して、所構わず君を溺愛していいってことか」

「っ!?」

「なら……俺の方も、付け込むとか考えずに、グイグイ押していいってことだ。なんだ。早く言えよ」


なんだか空恐ろしい言葉が、私の耳元から直接鼓膜を震わせている。
妙なリズムでひっくり返る鼓動を気にしながら、そっと目を横に向ける。
彼は私の肩口に額をのせたまま、やけに妖艶に細めた目を流していた。


「せ、せんせ……?」

「そういうことなら、遠慮しない。俺もその方がやりやすい」


そう言って、各務先生はソファから立ち上がると、私をヒョイッと抱き上げた。
いきなり浮き上がる感覚に焦りながら短い悲鳴を上げて、私は彼の首にしがみついてしまう。
耳元で、ククッとくぐもった笑い声が聞こえた。


「そうそう。それでいい。葉月、君も遠慮なく俺にくっ付いて」

「な、何言ってんのっ!」

「俺の全部、君の物にしていいよってこと」
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