エリート外科医の一途な求愛
「……懲りもせず、各務先生を追い出そうとか言い出すんじゃないでしょうね」


もう一度椅子ごと距離を離してから、私は眉間の皺を深めて木山先生を見遣る。
彼はほんの少し肩を竦めて、ニッコリと笑った。


「なかなか鋭い。でも、今度ばかりは俺だけじゃなく、各務先生にとってもメリットあるはずだから。君からも各務先生に言ってやれよ。『さっさとアメリカに行け』って」


嫌らしく歪んだ唇から紡がれたその言葉に、私は一瞬目を丸くした。
その意味がよくわからず、無意識に『え?』と聞き返しただけだ。


「付き合ってるわけじゃなかろうが、ほんの少しでも各務先生のこと好きだって気持ちがあるならさ。今何が大事で必要なことか、気づかせてやれよ。情けないことに、決断し切れないのは君のせいのようだから」


ゆっくりねっとりと言われて、よくわからないなりに、嫌な予感が胸に立ち込めていくのがわかる。
その先の説明を促すように木山先生に真っすぐ視線を向けた時、彼は教授室の方に素早く視線を向け、私のデスクから立ち上がった。
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