エリート外科医の一途な求愛
「そう言えばさ~。病棟で聞いたんだけど。各務先生って、またアメリカ戻っちゃうんだってね」


お昼休みに学食で向かい合った千佳さんが、溜め息混じりにそう言った。
それを聞いた途端、私の箸を持つ手は止まってしまう。
千佳さんの言葉に反応したのは、早苗だった。


「この間の心移植手術で、アメリカからオファー来たとかですか?」


割り箸を割る早苗に、千佳さんが大きく首を横に振る。


「そうじゃなくてね。元々日本への帰国は期間限定だったとか。この間、ブラウン先生が来てたのも、その辺の事情があるらしいよ」


千佳さんが付け加えた説明に、早苗は、『へえ~』とちょっと上擦った声で返事をした。


「そうなんだあ。ってことは、年内とかには行っちゃうんですかね」

「いや、決まってたってことだし。木山先生が急に学会代わったこと考えても、もしかしたら夏休みが終わる前とかあるかもね……」


何気ない千佳さんの言葉にも、私の胸はドクンと疼くような音を立てる。


「そっか……。今度アメリカに行っちゃったら、いつこの大学に戻ってくるんだろう」

「ん~どうだろ。各務先生の研究だけ考えたら、アメリカの方が環境整ってるし。それに、戻ってくるにしても、その頃にはウチの医局の教授、木山先生に替わってるかもしれないよね。元々各務先生が来なきゃ、准教授になるのは木山先生だったんだし」
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