エリート外科医の一途な求愛
『もしかしたら、アメリカに行きっ放しになっちゃうかもね』と、千佳さんが寂しそうに呟く。


私の意識から、二人の会話がどんどん遠のいていく。


今目の前で二人が話しているのは、誰もが当たり前だと思っている未来のこと。
そうなるのが当然の運命に、私一人で抗っているような、そんな心細さに襲われる。


「……葉月? どうした? 食べないの?」


いつの間にか、二人の話題は各務先生から逸れていたようだ。
それでも私の思考は、そこに張り付いて留まったまま。
私は慌てて勢いよく首を横に振った。


「な、なんでもない! 食べる、食べる」


取って付けたような笑顔を浮かべながら、私は味噌汁の器を手に取った。
下に沈んだ味噌を箸で掻き回して溶きながら、ズズッと一口啜り上げる。


満遍なく味噌が溶き渡った味噌汁は、美味しいけれど淀んでいる。
私の心そのもののようで、私はキュッと唇を噛んだ。


各務先生と、話さなきゃ。
たくさんの命よりも大事にするのが私じゃいけない。
だって、彼の手は神の手なんだから。


そう思うのに心は揺れる。
だって、未来に抗う力も、運命を変える強さも、私にはないから。


心が留まりどころを知らずに、真っ暗闇を漂っているような気分だった。
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