エリート外科医の一途な求愛
水曜日の夜、私は医局を出た後、真っすぐ各務先生のマンションに向かった。
しばらく一緒に過ごすのは控えた方がいいと言ったのは、ほんの数日前のことなのに。


各務先生が住むマンションは、大学から歩いても二十分ほどの距離にある。
彼はいつも車通勤だから、通勤時間は十分ほどの好立地だ。


一人には十分過ぎる2LDKという間取りでもわかるけど、住人層はまだ子供の小さいファミリー、もしくは子供のいない新婚夫婦といったところ。
私がこのマンションのエントランスに着いた時、多くの部屋の明かりが外の通りに漏れていた。
窓が開け放たれているのか、階上の部屋から小さな子供の声も聞こえてくる。


私の後から中に入っていくのはスーツ姿のサラリーマンばかり。
その誰もが、エントランスの壁にもたれて人待ちの私に、チラッと横目を流して通り抜けていった。


きっと各務先生の帰りは、午後十時は過ぎるだろうと思う。
向けられる視線に居心地悪さはあっても、ここからほんの少しも立ち去れないのは、明日から大阪出張の各務先生と次に会うまでに日が空いてしまうというのと、やっとついた決心を鈍らせない為だ。


焦りもある。
私の思考回路は、いつもと違う働きをしてるかもしれない。
それでもここに来るまでも散々考えて、これ以外に正しいと思える考えが浮かばなかった。
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