エリート外科医の一途な求愛
だから、きっとこれが、私が出せる最良の答えなんだと自分に言い聞かせる。
大丈夫。この答えで間違ってない。


予想通り午後十時を過ぎて、エントランスに各務先生が入ってきた。
いつもと同じように、この時間でもビシッと決まったスーツ姿。
そんな彼が、私を見つけてギョッとしたように大きく目を見開いた。


「葉月!?」


彼の口がそういう形に動いて、同時に大きな歩幅で駆け寄ってくる。


「どうした? いったいいつから……」

「突然すみません。お約束もしてないのに」


訊ね掛けられる言葉を遮って頭を下げた私は、多分彼には余所余所しく映ったんだろう。
顔を上げた時に向けられていたのは、どこか戸惑った瞳だった。


「いや、いいけど。……中に入って」


各務先生は軽く前髪を掻き上げながら、ポケットから取り出した鍵でエントランスのロックを解除した。
軽くポストを覗き込んでから、私を先導するようにエレベーターに向かっていく。


その背中を一歩遅れて追い掛けながら、私は無意識にゴクッと喉を鳴らしていた。
ずっと緊張感途切らせないようにしてたせいか、額には薄く汗を掻いていた。


日中誰もいない広い部屋に足を踏み入れた途端、ちょっとひんやりした空気が纏わりついた。
各務先生は私を中に入れてから玄関の鍵を閉め、先に廊下に立ってリビングに入っていく。
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