エリート外科医の一途な求愛
「急にどうした?」


私が後に続くと、彼は脱いだ上着をソファに放り、ネクタイを解いてシャツのボタンを上から二つ開けたところだった。
軽く俯いた姿勢から、私を探るように斜めの視線を向けてくる。
そんな仕草にドキッとしながら、私は脇に垂らした両手をギュッと握り締めた。


「先生」

「ん?」

「毎週のように日本全国いろんなとこに出張するって、大変ですよね」

「……? うん」


私が何を言おうとしてるのか計りかねるように、彼は手を止めて首を傾げた。


「研究の為の症例やデータも……集めるのに時間掛かって大変ですよね」


心を読み切られないうちにそう畳み掛けると、またしても『うん』と短い返事が返ってきた。


「そうだな。もうちょっと日本でも環境が整えばいいんだけどね」

「アメリカの方がずっと、先生の研究も進みますよね?」


私が早口で続けた言葉に、各務先生は口を噤んで浮かべていた笑顔を引っ込めた。
そして訝しげに眉をひそめ、私の方に身体ごと向き直ってくる。


「葉月?」


疑惑が深まっていく、そんな表情の変化をこの目で見守りながら、私は足が震えそうになるのを必死に堪えた。
渇いた喉に声が引っかからないように、一度唾を飲み込む。
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