エリート外科医の一途な求愛
「ごめんなさい。教授から聞き出しました。各務先生の、アメリカ行きの話」


思い切ってそう言った私に、彼は見開いた目を真っすぐに向けている。
その視界の真ん中にいることに心の中で怯みながら、私は更に足に力を入れた。


「それを、先生が拒む理由も、全部」

「葉月、俺は」

「嬉しかったです。こんな私を大切だって言ってくれて」


ちょっと急いたように足を踏み出す各務先生を遮って、私はそう言って笑って見せた。
彼はわずかに怯んだように、私の目の前で足を止める。


「こんなって。……自分のこと、そんな言い方するなよ」


少し戸惑ったような声が頭上から降りてきて、私はそっと上目遣いに彼を見つめた。
各務先生は、額に大きな手を当てて、フッと私から目を逸らす。


「俺が惚れた女なのに、そんな風に言うな」


ちょっと不貞腐れたようなその言い方に、私の胸がきゅんと疼いた。
顔を俯け、一度唇を噛み締める。


「ありがとう」と呟いた声は小さくて震えた。
そのまま顔を上げられずにいる私を、各務先生がそっと覗き込んでくる。


「葉月」


私の目線の先で、各務先生の薄い唇が私の名前を呟くのを見た。
私はそれ以上目を上げることが出来ないまま、気づかれないように小さく息を吸った。
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