エリート外科医の一途な求愛
「すみません。私は、もうちょっとしたら……」


俯いて、小さな声で早口で答える。


「そっか」


短い返事と共に、各務先生がドアを開けた。
さっきまでちょっと遠く聞こえていた発表者の声が、一瞬クリアに大きくなる。


「葉月、元気で」


私にそう言うと、各務先生は講堂の中に入って行った。
反射的に振り返った私の前で、重いドアがゆっくり音もなく閉まる。


彼の姿が見えなくなった途端、私の目から堪え切れない涙が次々と伝って落ちてきた。
そんな自分に驚きながら、私は慌てて両手で顔を覆った。


「結婚しないで、なんて……」


無意識に呟いた声が涙で詰まる。


そんなの、当たり前だ。
私は彼が医局に戻ってくる三年後まで、きっと誰にも恋なんか出来ない。
誰も好きになれない。


各務先生が誓ってくれた通り、三年後に医局に戻ってくる彼を、きっと私は待ち続ける。


はっきり自分でそう思うのに、『待ってる』の一言を告げられなかった。


約束する自信はなくて。
足手まといになるような約束を、彼にしたくなくて。


「っ……」


私は止まらない涙を必死に飲み込みながら、揺れる心と闘った。
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