エリート外科医の一途な求愛
【小話】心臓外科医・各務先生が怖がるもの
昼を挟んで五時間のオペを終えて、大きな息を吐きながら医局に戻った。
先に別のオペを終えていたレイが、俺の隣のデスクからひょいっと顔を上げる。


「お疲れ様、ハヤト」


プラチナブロンドの長い前髪が目元にかかって邪魔なのか、彼は軽くどけるように掻き上げた。


「お疲れ」


レイに同じ言葉を返して、俺は脱力しながらドカッと椅子に腰を下ろした。
そんな俺を、レイが横から首を傾げて見遣ってくる。


「どうした? ハヤト。今日のステントグラフト、君にしてみればそんなに疲れるオペじゃなかろうが」


今日の手術報告書を作成していたレイが、不思議そうに訊ねてくる。
俺は椅子の背もたれに大きく背を預けて、首を縮めながら何度か頷いた。


「まだ戻って来て間もないから、アメリカの生活リズムに戻り切れてないのか?」


クスクス笑いながら自分のパソコンモニターに視線を戻すレイに、俺は黙ったまま、今度は首を横に振った。


突然決定したアメリカの古巣での勤務。
日本を発つ前のスケジュールは殺人的だった。


渡米して再びこの大学病院で勤務するようになったのは、ほんの一週間前のこと。
先週は確かにまだ疲れもあったけれど、ここでの生活リズムなど、取り戻す必要がないくらい、嫌ってほど身に沁みついている。
もちろん、思わず溜め息が漏れるのも手術疲れではない。
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