エリート外科医の一途な求愛
「……まさかここまで驚くとは。悪い悪い」


どこか朗らかな声で、全然悪いと思ってなさそうに呟くと、般若は私の口から手を離してくれた。
その時には、それが妙にリアルなお面で、その声が各務先生の物だと私もわかっていた。
それでも盛大に驚いてしまった後で、胸がすごい勢いでバクバク鳴っている。


「なっ……な……」


さすがに直ぐには言葉を発することができない。
しゃっくりみたいな短い言葉を吐きながら、うるさく騒ぎ立てる胸に両手を当てた私の前で、各務先生は書架から腕を離し床に屈み込んだ。


そのつむじを追いかけるように視線を下に向けると、私が散らかした議事録を拾ってくれてるのがわかる。


「す、すみませっ……」


慌てて私もしゃがみ込んだ。
ところが、書架と書架の間の通路は、大の大人が二人、正面から向き合ってしゃがみ込めるほどの広さはない。
『え?』と顔を上げた各務先生と、私は思いっきり額をぶつけていた。


「痛っ」


反射的な短い声が被る。
私は咄嗟に額に手を当てながら、すごい至近距離にある般若のお面にギクッと身体を強張らせた。


「あの……各務先生だとわかっていても、そのお面はジワジワと怖いので、外してもらえませんか」
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