エリート外科医の一途な求愛
彼は私の質問に面白そうに目を細めて、クスッと笑った。


「4A病棟のナースステーションで見つけたから、もらってきた」

「いや、そういうことを聞きたいんじゃなくて」

「顔が嫌いだって言われたから。だったら仁科さんの前では晒さない方がいいかと思ってね」

「……」


シレッとした口調で返されて、私はギクッと一瞬怯んだ。


嫌味? それとも結構本気で傷つけてしまった?
彼の真意がどっちだかわからず、私は恐る恐る口を開いた。


「……ご気分害してしまったみたいで、すみませんでした。ちょっと……むしゃくしゃしたもんで」

「別に」


般若のお面を額まで持ち上げ、各務先生はさらっと言いのけた。
そして、お面を頭にのせ、白衣のポケットに両手を突っ込む。


「まあ、気持ちはわかるけどね。あんな惨めな振られ方したら、俺だってムカつくだろうし」


そう言って、各務先生は私の前から一歩身体を横にずらしながら、私が背にした書架に並ぶ文献の背表紙に視線を走らせる。


「惨め……ですよね」


黒い瞳を横に流す各務先生の横顔を、私はそっと窺った。
私の視線を感じてかどうか、彼は「でも」と続ける。
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