エリート外科医の一途な求愛
「どうでもいいが、すごい言いがかりじゃないか? 人間を顔で判断するなよ」


眉間に皺を寄せ、細めた目で軽く射抜かれる気がした。
ドキッと胸が跳ねてしまったのを誤魔化すように、私はプイッと顔を背けた。


「その顔で言うとやっかまれますよ。ナイフ持って出待ちされるんじゃないですか」

「……」


各務先生は心底から呆れたような目を向けていた。
ポカンと口を開け、呆気にとられたその様子に、私もハッと我に返る。


つい感情的になって言いたいこと言ってしまったけど、何度も言う通りこの人は准教授! 私の上司!
医局では教授の次に人事権を持つ人に、私、何を言いたい放題言ってるんだろう。


「し、失礼しました! 失礼します!!」


私は議事録を胸にしっかり抱え込み、各務先生に頭を下げた。
肩に置かれた手を振り払い、勢いよく踵を返す。


「仁科っ……」


各務先生の声が背を追ってくるけど、もちろん振り返る余裕はない。
カウンターで舟を漕いでいた司書さんに声をかけ、私は図書室から飛び出した。
そのまま一目散に、踵を鳴らして人気のない廊下を走り抜けた。
< 30 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop