エリート外科医の一途な求愛
「うーん。まあ、美奈ちゃんの言うことも一理ある。好みの問題だけどさ。確かにウチの医局のドクター、悪くないと思うんだよね。それを差し置いて、なにもあんなずんぐりむっくりに電話番号教えなくても……」


千佳さんもちょっと頬の筋肉を引き攣らせて、どこか私を窘めるように続けた。
早苗も、千佳さんに同意するように、大きく何度も頷いている。


ウチの医局と言うのは、この国立東都大学医学部の、心臓外科医局のこと。
教授をトップにした医師集団の組織で、全員集まると結構な大所帯になる。


私、仁科葉月(にしなはづき)は、そこで医療秘書として働いている。
三年前に一般企業から中途で入職して、あの頃は今の美奈ちゃんと同じ二十六歳だったけど、今はアラサー、二十九歳。


「確かにみんなエリートだし、そこそこカッコいいし、将来有望なのはわかるんですけどね」


私はそう返事をしながら、たらこスパゲティのお皿の上でグルグルグルとフォークを回した。


「一般的にイケメンと呼ばれる男性に、私は魅力を感じないんです」


スパッと言いきる私に、他の三人は大きな溜め息をついた。


みんなから何か言いたげな空気を感じながら、私はそっと目線を動かす。


学食の奥、吹き抜けになっているアトリウムに、白衣の男性数人が座っているテーブルがある。
全員、心臓外科医局員。
つまり、私の『同僚』だ。
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