エリート外科医の一途な求愛
彼は背もたれに片腕を掛け、『どう?』と言いたげに首を傾げる。


私は一度大きく深呼吸してから、背筋を伸ばして口を開いた。


「お断りします」

「じゃ、俺も断る」

「ええっ……!?」


短い応酬の末、結局私が絶句する羽目になる。
口をパクパクさせるだけの私に、各務先生はとっても楽しそうにニッコリと微笑んだ。


「仁科さんは医局の秘書なんだから、その撮影が入る時は俺に同行するんだろう?」

「それは……」


仰る通り。
実際、今までも何回か撮影の時は着いて回った。
とは言え、それは大学の講義室の一番後ろだったり、オペ室の見学室だったり。
同行、と言っても、私が着いて回ったのは、むしろプロデューサーの高瀬さんに、だった。


「食事の相手するだけだよ。撮影なんだから、それも君の仕事だろう?」


口ごもる私に、各務先生は畳みかけてくる。


「どうする? 仁科さん。心臓外科医局の来年予算が潤うかどうかは、君次第だよ」


私は何も言い返せないまま、ただグッと詰まるだけ。


なんだかよくわからないけど、これって脅迫っていうんじゃないだろうか……。
そう思うからこそ頷けない。
なのにもちろん、さっきと同じ勢いで断ることも出来なかった。
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