エリート外科医の一途な求愛
第二助手が気管挿管を行う中、手術スタッフの一番最後に各務先生が入室した。
目元はゴーグルで覆われ、大きなマスク、髪はキャップの中にすっきりとまとめられていて、遠目では顔立ちもわからない。
それでも、しっかり手術台に視線を据えて進んでくる彼のオーラは半端なく、私の横に立っていた他の医局の助教がゴクッと喉を鳴らすのが聞こえた。


執刀位置に立った各務先生が、手術台に横たわる患者さんの顔に一度視線を向けた。
そして次に麻酔医の方を見遣る。


「よろしいですか?」


マスクの下から少しくぐもった声で問いかける。


「はい」


麻酔医もモニターから目を離し、短い返事を各務先生に返した。


淡々とした様子で全身麻酔の効き具合の確認を終えると、各務先生は胸元の高さに両手を持ち上げたまま、彼の前に立つ第一助手を務める講師に軽く目礼する。
そして、周りのスタッフたちに、各務先生がサッと視線を走らせた。


「よろしくお願いします」


各務先生の一言で、オペ室内にそれまで以上の緊張感がみなぎる。


「よろしくお願いします」


オペ室内のスタッフ全員が各務先生に呼応すると、ガラス越しの見学ルームの空気まで、一瞬にして張り詰めるのがわかった。
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