エリート外科医の一途な求愛
手を取られるまま、白衣の裾を引っ張られるまま。
患者さんたちの熱狂ぶりに、各務先生もちょっと苦笑しながらも、神らしからぬ気さくさで応じている。
『お加減どうですか？　手術痕は痛まない？』と、自分が執刀した患者さんじゃなさそうな人にも、気遣いの言葉を掛ける。


「いやあ～各務先生のファンは、年齢層も幅広いなあ……」


高瀬さんが感動したように拍手しながら、カメラマンに近寄って撮影するように言いつけている。


「同年代の女性だけじゃなく、中年から超高齢者まで……。ファンに囲まれる図は絵になるぞ。いいな、もっと撮れ」


理想の『絵』を前に興奮した様子で続ける高瀬さんに、私はちょっと笑顔を引き攣らせた。


「ファンって……患者さんじゃないですか。そりゃあ、年齢層も高くなりますって」


心臓外科に限らず、入院患者比率は圧倒的に高齢者層が多い。
高瀬さんに言わせたら、下は新生児から上は百歳まで、全ての日本女性が各務先生のファンにされてしまいそうだ。


なのに高瀬さんは、ちょっと得意げな目をして、『いやいや』と首を横に振る。


「患者にとって医師は神様かもしれませんけどね。それだけであんなに群がりませんよ、普通」


ニヤニヤと声を低められて、私はちょっと及び腰になりながら「え？」と聞き返した。
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