エリート外科医の一途な求愛
「仁科さん」


高瀬さんが、足を止めた私を咎めるように眉を寄せた。
『相手にするな』そう言われてるのを感じて、私も一度自分を落ち着けようと深呼吸をする。
なのに。


「患者はともかく、同年代の女性に対しては過剰と言って間違いないんじゃないかな。各務先生にその気があろうがなかろうが、勘違いさせる言動があるからあれだけ女が群がるんだ。『媚びてる』が気に入らないなら、無意識に『口説いてる』とでも言い換えようか? それこそ、呼吸するようにスマートに。ほら、仁科さん。見てみなよ、ナースステーション」


更にそう畳みかけられ、そっと振り返ると、顎でしゃくって視線を促された。
私だけじゃなく、高瀬さんも黙ってその方向に顔を向ける。
まさに、各務先生がナースステーションに入って行くところだった。


颯爽と白衣の裾を翻し、『こんにちは』と明るい挨拶をしている。
その途端、パソコンに向かっていた病棟クラークが、『各務先生!!』と弾んだ声を上げるのが耳に届いた。
それはステーション内でカンファレンスをしていたナースたちにも伝播していき、みんながワッと彼を取り囲む。


そこに上がるのは、職場で聞くにはそぐわない、華やかな黄色い歓声。
こっちは慢性期病棟で、患者さんの容態が落ち着いてるのか、ちょっとのんびりムード。
ナースたちはカンファレンスを中断して、各務先生の視線の争奪戦をし始めた。
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