エリート外科医の一途な求愛
各務先生は、「いや」と短く言って首を横に振った。


「さすが、仁科さん。完璧」

「よかった」


手放しの高評価にホッとして、私は息をついた。
無意識に、笑顔を浮かべてしまう。


「じゃ、すみません。私、今日はこれで……」


そう言って、時間を気にしながら各務先生に背を向けようとして、「ちょっと待って」と声をかけられた。


「はい?」


返事をしながら振り返る。


「これだけ揃えるの、大変だったろ? 俺も今日はこれで上がりだから、お礼にメシでもおごるよ。どう?」


ニコッと邪気のない笑顔を向けられ、一瞬ドキッとしながらも、私は自分の腕時計に視線を落とす。


「いえ、ありがたいんですが、これが私の仕事ですし。それに、今日はこの後予定があって」


そう言いながら、私もニコッと笑って各務先生に返事をした。
それを聞いて、彼は文献を手にしたまま、ふ~んと軽く鼻を鳴らす。


「俺、この間もそう言って断られたっけ」

「え?」
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