エリート外科医の一途な求愛
彼が何を思い出してそう言っているのか。
そんな疑問で、私は首を傾げた。


私の反応に、各務先生は端正な顔をほんのちょっと不機嫌に歪めた。


「一ヵ月前。仁科さんに講義の資料作成頼んだ時」

「……ああ」


彼の言葉で記憶を辿り、まさにその事実に思い当たってから、私はなんとなくそう呟いた。


あの時は、別に用はなかったけど、同じ理由で断ったんだったっけ……。
記憶を蘇らせながら、私はもう一度彼に笑いかける。


「すみません。でも、お礼とか、ほんとお気遣いなく」


そう言って、深く頭を下げた。
頭を上げると、何か言いたげな各務先生に背を向け、私は自分のデスクに戻る。


椅子に座って、パソコンを操作し始めると、なんとなく感じていた彼の視線が私から逸れたのがわかった。
そっと顔を上げて窺うと、各務先生も資料を手に自分のデスクに戻っていく。
心の中でホッと息をして、私は本格的に帰り支度を始めた。
< 9 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop