エリート外科医の一途な求愛
ハッとした瞬間には、その手が私の背後の棚についていた。


まるで射られた弓矢の刺さった場所を確認するように、私はその手が置かれた棚に視線を流す。
前に各務先生がいるのに後ろを阻まれたら、私はそれ以上後ずさることが出来ない。


「考えてみたら、俺は君の返事を待ってる途中だった」


各務先生はもう片方の手も私の脇につき、そこからグッと身を屈めた。
私の反応を見逃すまいと言うように顔を覗き込み、鋭い瞳で見据えてくる。
射竦められたように、私の身体は固まった。


「返事って、なんの……」

「二度目の口説きの返事」


耳元で言い聞かせるように囁かれる。
耳を吐息でくすぐられ、私は思わずビクッと震えてしまった。
そのまま、目線を逃がすように俯く。


「な、何言ってんですか。口説くって、冗談やめてください」

「ふざけんなって言いたい?」

「ま、まさにあの時そう言おうと思ってました」


言い捨てるように返事をして、私は無意識に両肘を抱え込んだ。
そんな私の反応に、各務先生はふうっと息をつく。


「じゃあ、三度目は言い方変えようかな。君に答えを委ねてたら、一方的に全部冗談で済まされそうだ」


各務先生はそう言うと、片手を棚から離して白衣のポケットに突っ込んだ。
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