暗黒王子と危ない夜
苦笑いを浮かべて、付け加える。
「ま、見た目が好きってだけで、あいつは花言葉なんか意識してねえかもだし、そもそも知りもしないのかもだけどな」
「そう言う三成は詳しいよね、花言葉とか」
「これでも一応華道やってる人間なんでねぇ〜」
改めてもう一度、本多くんがデザインしたというステンドグラスに目を向けてみると、枠の左下に小さく文字が彫られているのが見えた。
目を凝らしてみる。
“ Nanase Honda ”
ローマ字で記された名前の隣に、さらに小さく、日付けが並んでいた。
20XX . 07 . 07 . ──
計算してみると、今から4年前……あたしたちが中学1年生の年だ。
「七夕の日に作ったんだね」
「……ああ、そうだな。一般的には七夕か」
「一般的?」
「七瀬って名前、親父さんが付けたんだってさ」
「え……」
「7月7日に生まれたから七瀬。単純っちゃ単純だけどいい名前だよなー」
本多くんの誕生日、だったんだ。
初めて知った……。
七瀬と名付けた本多くんのお父さんは、一体どんな人なんだろう。
想像してみると寂しい気持ちになる。
どんな人だろうと親は子供にとって世界で唯一の存在。
代わりになる人はいたとしても、当然のことだけど、本人以外、本人にはなり得ないのだから。
「今どこで何してんだろうな、七瀬の親父さん」
青く輝くブルースターの花を見つめながらぽつりと呟いた三成に、あたしは何も返すことができなかった。