陽だまりの林檎姫

3.守るべき理由

「うまい。」

思わずそんな言葉が零れた。

この店の珈琲は深みがあって中々のものだ。芳ばしいアーモンドクロワッサンにもよく合う。

ミズキが適当に選び、一息つく為だけに入った割りには当たりだったと頼み直した珈琲を口に含みながら北都は思った。

日差しが気持ち良く降り注ぐ昼下がり、なんて優雅な時間だろう。

カフェテリアのパラソルから見上げた空は気持ちいいくらい晴れ渡っていた。

着慣れたスーツ越しにも感じる爽やかな風がより時間を味のあるものに仕上げていく。

気分が落ち着いた所でさっきまで参加していた講習会の資料に目を通して、この優雅な時間を満喫することにした。

ミズキの手前、必要のない講義だと口にしたが実際にはそうではない。

中々興味のそそられる話でそれなりに面白いと感じていた。

1つ残念なことがあるとすれば講師の腕だが、この資料を入手できただけでもよしとしたいところだ。

だからこそ改めて見返すこの時間が必要だった。

穏やかで心地よく勉学に集中が出来る時間、しかしどうやらそれも長く続かなかったらしい。

「コホン。」

手元が日陰になったと思ったら近くで咳払いをする声が聞こえた。

明らかに自分に向けてやられていることは勘付いたが面倒くささが先に出て得意の無反応を貫く。

それも想定済みなのか椅子を引く音がしたかと思えば真正面に誰かが座ったことを視界の端で気が付いた。

覚えのある香がその人物を決定付ける、やはり思った通りの人物だった。

「随分とゆっくりされているようですね、北都さん。」

声をかけられたことで確信を得たが、未だ視線は資料に向けて珈琲が入ったカップに手を伸ばす。

状況を把握しているくせにあえて無視を選んだ北都に栢木は怒りマークを頭に付けて微笑んだ。

「聞いてるんですか!?ちょっとー!」

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