陽だまりの林檎姫
手を伸ばして資料を取り上げ、何とか意識を自分の方に向けようとそれを顔の横で揺らす。

北都はカップに口を付けたまま怪訝な顔をみせた。

そこで初めて二人の視線はぶつかることになる。

北都の目が見開いたが栢木の笑顔は見るからに怒りを内に秘めていた。

ボブカットにされたダークブラウンの髪、彼の記憶とは違う姿だが耳に光る深紅のピアスが栢木だと決定づける。

「お前…金髪じゃなかったか。」

「誰かさんが目立つと煩いからウィッグを買ったんですよ!」

「ふーん。」

分かっていた。

こういう反応になるであろうことは予想していたのだが、大して興味のない相づちに栢木の笑顔が引きつる。

しかし珈琲を飲みながらも珍しく目を逸らさない北都に毒気が抜かれていった。

「同じ屋敷に居たんですから声をかけて下さいよ。」

諦めのため息と共にこぼした言葉はどこまで届くのだろうか。

「マリーには講習会に行くと伝えておいたが?」

何を言っているのだと言わんばかりの様子で北都は手にしていたカップを机に置いた。

前にもあった場面だ。

前どころじゃない、今まで何度となくあった場面だ。

そう思い返せば治まっていた筈の栢木の怒りが再燃し、さっき奪い取った紙を勢いよく振り回して憤りを訴えた。

「どこの講習会かって話ですよ!知ってました?今日の新聞には2つの講演会が掲載されていたんです、2つですよ!?間違えて最初は違う方向に行ってしまって御者のダンにどれだけ迷惑をかけたか…っ!」

「お前の判断ミスだろ。」

「それは…っ!そ、そもそも北都さんがこっそりいなくなるから…っ!こんなことになったんじゃないんですか!」

半ば八つ当たりに近い栢木の言葉に北都の目が少しずつ細くなっていくのが見えて栢木は言葉に詰まってしまった。

< 107 / 313 >

この作品をシェア

pagetop