陽だまりの林檎姫
もどかしい気持ちが素直に表情に出ていることを北都自身は気付いているのだろうか。

かつては見られなかった豊かさにタータンは目を細めた。

「論文が通れば解決するさ。」

「教授もそう言ってくれてます。この待ち時間が…厳しいですね。」

前を向いて先へ先へと進もうとしている北都をどれだけ待ちわびただろう。

時折ワタリと会った際に北都の話になるが、案じるものが多かった。しかし今では楽しみを語ることが多い。

「薬草園の管理をしているんだろう?何か発見は?」

「先日データを取れたんですが、もう少し長い目で見ていきたいですね。でもゼロからイチになった結果はかなりいい成果です。」

目を輝かせて語る北都にタータンは思わず笑ってしまった。

「ははは。これは酒を酌み交わす日を準備した方が良さそうだ。数分で終わる話じゃない。」

盛り上がってしまったことを気付かされ、北都は視線を泳がせて珈琲に逃げる。

自分が実はこんなに熱い人間だったなんて、この地に来て初めて気が付いた。

研究の話をするといつも盛り上がって饒舌になる。

かろうじてまだ心を許し切っているワタリ公爵とタータン医師にしか見せていない姿だが、他の人に対しても時間の問題な気がして落ち着かなかった。

「こちらとしても話したいことはある。北都くんが作った2つ目の新薬、あれのなかなかの評価を得ているよ。医療現場にいる人間からすると奇跡の薬だ。」

それはつまりキリュウと同じ病に効く薬の事を指していた。

不治の病とされていたものに効果のある薬、治療を施し回復をし始めた患者たちにとってはまさに奇跡の薬だ。

あれからキリュウがどうなったかは知らないが、彼の体にも合っていればいいと願っている。

「もうすぐ検診だが、体の様子はどうかな。」

「安定しています。服用の回数も減りました。」

「それは何よりだ。」

嬉しそうに微笑むタータンの姿に心が和む。

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