陽だまりの林檎姫
掴んでいた手にそのまま指を絡ませて北都は研究室に行くように栢木の手を引いて歩き出した。

当たり前の様なこの感覚が何よりも幸せなものであると噛みしめている。

「人気のお店ですか?」

「ああ、この辺りでは有名なカフェだ。今日初めて行った。」

「へえ。あ、私そこで働こうかな。」

「お前どこまで庶民的な感覚なんだよ。」

「逞しいって言ってください。」

何気ない言葉のかけあいがこんなにも楽しい、前までは確かにあった距離は手を繋ぐことでゼロになっていた。

そう言えば助手である学生が今日の仕事は休みでもいいと言う様な事を言っていたと思い出す。

そしてワタリが絡んでいるようなことも臭わせていた。

成程、つまりはワタリに全て筒抜けなのだ。

案の定いつの間に置いたのかは知りたくないが、研究室の北都の机には部屋の鍵と思われるものが置かれていた。

そして一言見覚えのある字でお節介にもメッセージがある。

「愛の巣をプレゼント。」

「ありがたいですね、北都さん。」

何の躊躇いもなく受け取れる栢木が羨ましくも思うがどちらかといえば呆れた気持ちが強い北都は天井を仰いだ。

「全く。」

そこにあった筈のサンドウィッチがないのはおそらくワタリが拝借していったのだろう。

「このままだと明日にでも結婚式を段取りされそうだ。」

「まさか。」

「…いや、やりかねない。行くぞ、栢木!」

北都は栢木の手を引き走り出した。

状況が分からない栢木は驚きながらも必死についていこうと足を動かす。

「北都さん!?」

「ワタリ公爵に会いに行く!暴走される前に手を打ちに行くぞ!」

その思いは本気のようでかなり焦った様子の北都は栢木を力強く引っ張った。

「あは。」

あまりにも自由すぎて笑ってしまう。

北都はこんなにも両手を伸ばして生きられる場所を見付けたのだ。

笑わずにはいられなかった。

「笑ってる場合か栢木!走れ!」

「はい!」

引っ張られているだけではなく栢木も自ら腕を振って走り始めた。

途端に速度が上がって北都からも笑みがこぼれる。

「夫婦初の共同作業ですね!」

「阿呆!」

2人は手を繋いだまま、ひだまり煉瓦の街並みを走り続けた。




***陽だまりの林檎姫***
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