陽だまりの林檎姫
マリーの言葉に従って横になっていても体は休もうともしない。

頭の中で暗く蠢くものが強い力を持って全てを支配しているみたいだった。

言葉は明確に分からなくても伝わる感情がある、それはきっと逃げ出したいと考える栢木自身の望みなのだと気付いていた。

机の上に置かれたプラマンジェ。

そこにあるのはミライの優しさ、でも半分は北都の優しさであることは確かだ。

作られた慰めではない言葉はこれ程までに自然に心に入ってくるなんて思いもしなかった。

本当に自分で自分の視野を狭めていたのだろうか、でもそうだと言い切れる自信なんてとうの昔に失っている。

知らず知らずに作ってしまった分厚い壁を壊せるのは自分自身だけなのに、奮い立たせる心なんて持ち合わせていなくて。

ため息を吐きながら、なかなか消えようとしない気持ちに嫌気がさした。

灯りをつけていない部屋からは窓の向こうの星の輝きがよく見える。

いつの間にか夜が訪れていた。

「いかなきゃ…。」

このまま休んでいても良くはならないし給料泥棒になってしまう、何をする訳でもないが誘われるようにして栢木は部屋の外に出ることにした。

部屋にいるだけではこの家に雇ってもらっているとはいえない。

今の自分に出来ることを1つでもやらなければと正義感に似た執着心が栢木を突き動かして階段の方へ向かっていった。

ロビーには人が集まり何やら騒いでいるようで栢木もそこに近付いていく。

どうやら雰囲気を察するに喜び事ではなさそうだ。

「どうしたの?」

さっきまでの騒ぎは何処へやら、栢木の登場にその場は一気に静かになった。

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