イジワル上司に甘く捕獲されました
歓迎会が行われているお座敷から少し離れた場所にある御手洗いの入り口近くで。

不意に峰岸さんが立ち止まった。

「あの……」

「橘さんって潤のことが好きなの?」

さっきまでの穏やかな笑顔は消えていて、目を細めて睨み付けるように私を見ながら峰岸さんが聞いた。

……潤?

その呼び方に一瞬戸惑って。

心臓がドクン、と嫌な予感に音をたてる。

誰のことを言っているかはすぐにわかった。

……何故、私の前で敢えてその呼び方をしたのかも。

「……どうしてですか?」

「あら、否定しないのね。
ということは図星なの?」

フッと綺麗な唇を綻ばせる峰岸さん。

「今日一日、ずっと潤を見てたわよね?
……潤も心なしかあなたを気にしていた。
あなたは全然潤のタイプには見えないけれどね」

峰岸さんは、何を言いたいのだろう。

「……瀬尾さんに憧れている女子社員は大勢いると思いますが」

私は震えそうになる心を必死で奮い立たせて、何でもないふりをして話す。

……本当は力を入れていなければ足がガクガクしそうだ。

私は無意識に胸元に手を当てる。

そこにある指輪に力を貰うように。



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