イジワル上司に甘く捕獲されました
「峰岸、何で札幌支店に?
お前、自分から希望したって聞いたぞ。
まさか……」

女性には優しい桔梗さんにしては珍しく、キツい眼差しを峰岸さんに向ける。

「あら、さすが早耳。
すごい情報網ね。
単純にこのプロジェクトに興味があっただけよ。
本部も長かったし……現場に戻りたかったの。
札幌支店限定で希望したわけじゃないわ、邪推しないで」

潤さんほどではないけれど、桔梗さんの鋭い眼差しをニッコリと笑顔で受け流す峰岸さんに。

「……どうだか。
お前は本当によくわかんないからな。
……引っ掻き回すなよ」

桔梗さんは低い声音で苛立たしげに呟く。

金子さんも藤井さんも私も、そんな桔梗さんを見たことがなかったので少し驚いた。

「あら、何の話?
いやぁね、昔の話を持ち出さないでよ。
桔梗くんも可愛い女の子が多いみたいだけど泣かさないようにね」

……言い方は結構な嫌味なのに、あまりそう見られないのは穏やかな表情のせいだろうか。

「私、ちょっと御手洗いに行ってくるわね。
でも場所が……あ、橘さん?
良かったら場所を教えてくれない?」

「何で美羽ちゃんに聞くんだよ、店員さんに聞いてこいよ」

「店員さんが見当たらないからよ」

何故か敵対しているような二人の会話に私は慌てて割り込む。

「あ、あのっ、私もちょうど御手洗いに行きたかったので一緒に行きましょう!」

「助かるわ、ありがとう」

苦虫を噛み潰したかのような桔梗さんの表情を横目で見ながら、余裕の笑顔の峰岸さんと共に部屋を出た。



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