イジワル上司に甘く捕獲されました
「……別れ話を切り出したのは俺なんだ。
今でも……覚えてるけど……峰岸はすごく驚いた顔をして、それから泣き出した。
……別れたくないって何回も何回も言われたよ。
……ごめん、美羽には聞きたくない話だよな」

私を心配そうに見る潤さんに、気にしないでと伝える。

「あまりに泣きじゃくるアイツに話ができなくなって、結局、一旦距離を置こうって話になったんだ。
……半年後にもう一回会って、もう一度話をしようと。
その時、お互いの気持ちが離れていたらきちんと別れようってなったんだ。
冷酷かもしれないけど、アイツがいない半年に俺は知らず知らずに慣れていたんだ。
半年間必要最低限しか連絡をとらなかったけど、そのことで淋しいとも思わなかった。
……だから俺の答えはとっくに出ていた」

ふうっと深い息を吐いて潤さんは話を続けた。

「約束の日に、俺はもう一度別れを切り出した。
その日も峰岸は泣いていた。
でももう俺にはアイツを受けとめる気持ちが残っていなかった。
……しばらくは何回かアイツから連絡が来て、あくまでも友人として会ったり、話したりはしていた。
何回か復縁も言われたけれど俺は断っていた。
……そんな状態がしばらく続いていたけど、何度言っても俺とはやり直せないことに気付いたのかある日を境にアイツは一切連絡してこなくなった。
……その日からアイツとは話さなくなって、俺はそれから恋愛を遠ざけた。
何回か告白されたことはあったけど、自分が本気で好きだと思える相手には出会わなかったし。
……自信をなくしていたこともあるし、自分が恋愛に向かない気がずっとしてたんだ」

……潤さんも終わりを迎えることに悩んだのだろう。

そして峰岸さんも。

別れたくないと何回もやり直したいと願った峰岸さんは本気で潤さんが好きだったのだろう。

……それがかなわないと頭の中でわかっていても心は理解できないし、きっとついていかない。

誰かを好きな気持ちは理屈じゃないし計算もできないから。

だから、峰岸さんは何度も潤さんに願ったのだろう。

気持ちを自分に向けてほしくて。

最初からずっときっと峰岸さんはそれだけを願っていたのだろう。

ただ、それが上手く噛み合わなくて。

上手く伝わらなくて。

……何かが違っていたら二人は上手くいっていたのかな……。



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