イジワル上司に甘く捕獲されました
俯いて黙りこんでいる私の肩を潤さんがそっと抱き寄せた。

「……ごめん、美羽。
美羽にそんな顔をさせたいわけじゃなかったんだ。
……信じてもらえないかもしれないけど」

潤さんのいつも自信に満ちた瞳が揺れている。

そこにあるのは……不安?

それとも心配?

「……眠り込んでいる美羽にバスで出会った時。
何故か気になって仕方なかったんだ。
……目が離せない自分がいた。
自分は恋愛に向かない、もう恋愛は疲れるからと言い聞かせていたし、そのことに疑問を抱くこともなかったのに。
美羽への気持ちは恋愛感情じゃないと自分に言い聞かせても、美羽はそんな俺のつまらないちっぽけなしがらみを驚くほど簡単に越えてきた。
……いつからか、いつも美羽が俺の中にいて。
何をしていても美羽のことを考えている自分に気が付いた。
美羽が悲しんでいたら慰めたくて、笑っていたら自分も嬉しくなった。
……何でもいいから美羽と関わっていたかった。
美羽に触れたくて会いたくてたまらなかった。
……そんな気持ちを抱いたのは初めてだったんだ。
……やっと……わかったんだ。
ああ、これが人を好きになるってことかって」

潤さんの言葉に私は息を呑む。

胸がいっぱいになって言葉が出ない。

胸の中があたたかいものに満たされていくのがわかる。

目の前の彼を見上げる視界が涙で滲む。

きちんと彼を見つめたいのに。

涙が邪魔をする。

……私も同じ。

私も潤さんに毎日感じている気持ち。

同じことを潤さんも思っていてくれていたなんて。

< 161 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop