イジワル上司に甘く捕獲されました
「美羽ちゃん、封筒がもうないわ」

「橘さん、これはこっちに入れるの?」

「橘さん、宛名シールを印字してくれない?」

広い応接室に広げられた書類の山。

夕方前から始まった作業の段取りをしながら、私自身も作業をする。

潤さんと峰岸さん、桔梗さんはセンターや本部に連絡をとったり、次回の案内状が同じようにならないように再発防止措置に奔走していた。

時限が決まっているスタッフさんには先に帰っていただき、それからしばらくして、他の係の方も帰り始めていた。

遅くとも午後九時まで、と本部ともかけあった結果、時間が定められた。

「橘さん、飲み物買ってくるわ」

まだ電話中の潤さん、桔梗さん、作業中の峰岸さん、藤井さん、私が最終メンバーだった。

気配り上手な藤井さんに言われて、慌てて私は返事をする。

「藤井さんっ、私が皆さんの分を買ってきますから」

悪いわ、と言ってくれる藤井さんの言葉を笑顔で返して。

私はビルの中にある休憩コーナーに向かう。

指は糊まみれ、インクまみれになっているし、ずっと座って下を見て作業しているせいで、目も背中も痛い。

……化粧も崩れていて疲れ顔になっているだろう。

だけどそれは藤井さんも峰岸さんも同じ筈。

既に不要な照明が落とされたビルは人気もなく、シンと静まり返っている。

こうしていると日中の喧騒が嘘のようだ。

私の足音だけが妙に高く響く。
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