イジワル上司に甘く捕獲されました

気持ちよく眠っているのに誰だろう、返事をしない人は……なんて思っていたら。

「おいっ」

と、大きな声がとても近くで聞こえてきて。

私は思わず目蓋を開けた。

そこには。

見たこともないくらい整った顔をした男性が立っていた。

私を見下ろす高い身長。

ダークグレーの細身のスーツをピシッと着こなしていて。

黒い、少し長めの前髪から覗く綺麗なクッキリ二重の瞳。

スッと通った鼻梁。

その全てが驚く程小さな顔におさまっていて。

ただ、その表情は残念なくらい険しいけれど……。

キレイすぎるその顔立ちにドキドキして。

思わずジッと見つめてしまった私に。

彼は更に不機嫌そうに、形のいい眉をひそめて、私をジロリと見下ろした。

えっ、何？

何で私、こんなに不機嫌な顔で見られてるの？

思わずたじろぐ私に。

「すみません、お客さん、終点なんで早く降りてもらえませんか？」

申し訳なさそうに言う運転手さんの声。

その声に私はハッとする。

終点……？

私、私、ちょっとのつもりが爆睡しちゃった……？

「そう、迷惑だからさっさと降りろよ」

私の思考を読み取ったのか、完璧な美形男性は捨て台詞を残してさっさと降車していく。

あの美形さんは起こしてくれていたのね……。

途端に羞恥に襲われる。

「お客さん？」

焦れたような運転手さんの声に。

「す、すみませんっ」

慌てて私は荷物を手にバスから降りた。