イジワル上司に甘く捕獲されました
バスから降りた私は、美形男性の後を急いで追う。

足も長い彼は既に私から随分離れた場所をスタスタ歩いている。

道行く人、特に女性が彼を振り返っていく。

やっぱり、誰が見ても美形だよね……。

追いかけているのに冷静にそんなことを考える私。

運良く彼は、交差点で信号待ちをしてくれていて。

私はその隙に追い付くことができた。

引っ越しの為に動きやすいスキニーデニムを穿いてきて良かったと安堵しつつ。

「あ、あのっ……」

無理矢理、真横に立って彼を見上げながら私は声をかけた。

彼は気付かない振りなのか、チラッと私を一瞥してすぐ前を向く。

「お、起こしてくださってありがとうございました」

小さく頭を下げる。

信号が変わり、人々が歩き出す。

「……寝過ぎだろ」

低い声でボソッと彼は言って、あっという間に前方へ。

えっ、と思う間もなく信号機が点滅し始めて私も急いで交差点を渡る。

既に彼の姿は見えなくなっていた。

……無愛想だけど、親切な人、だったな……。

目をひくのはやっぱり、ビックリするくらいに整った顔立ちだけど……印象深いのは起こしてくれたことだった。

……なかなか赤の他人を起こしてくれないよね……。

親切な人だったな、札幌の人って優しいのかな、そう思いながら彼が去った方向を見つめていたら。

斜めがけ鞄からスマートフォンの音が鳴り響いた。


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