イジワル上司に甘く捕獲されました
「……美羽ちゃん?」

返事をしない私を怪訝に思ったのか、桔梗さんが私を覗きこむ。

「あっ、はい、じ、潤さんですよね?」

「……いや、違うけど……まあ、そうだけど」

どう返事していいかわからないような困った表情を一瞬見せて。

明るく桔梗さんが私に笑いかけた。

「美羽ちゃんさあ、潤にボールペンあげた?
持ち手の部分が濃い青色の」

「え?」

そう言って桔梗さんはスマートフォンを取り出して画像を私に見せる。

それは、私がバレンタインデーに潤さんにあげたプレゼントのボールペンだった。

普段の仕事に使えるもの、目立たないもの。

幾つか持っていても負担にならないもの。

そんなことを考えて真央と選んだものだった。

種類もたくさんあって、色合いも何もかもとても悩んで。

書き心地も確かめて。

だけど、潤さんらしいかな、使いやすいかな、そう思って贈ったものだった。

でもどうしてこの写真を桔梗さんが?

驚いた表情の私を面白がるように桔梗さんが言う。

「その表情、やっぱり俺の勘は当たったね!
このボールペンさあ、潤が毎日胸ポケットに入れて持ち歩いているんだけど。
絶対誰にも触らせないし、貸してくれないんだよ」

「……え?」

「ほら、たまたま手元にペンがなくて借りる時ってよくあるでしょ?
俺、潤がいつもこのボールペン持っているの知っていたからさ、この間貸してって言ったんだよ。
そしたらさ、潤、どうしたと思う?」

ニヤニヤしながら桔梗さんが私に聞いた。

「どうしたって……貸したんじゃないんですか?」

私の返事に。

大袈裟に手を振って答える桔梗さん。

「違う、違う!
貸してくれなかったんだよ、アイツ!
普通の社内で備品として使われている百円のボールペン渡されたの、俺」

……え?

「何でこれ、って聞いたらさ。
無視するわけ。
でもさ、よくよく見てると、潤、他の誰にもそのボールペン貸さないんだよ。
貸さないっていうか、触らせないんだよ。
で、ピンと来たわけ。
これは絶対に美羽ちゃんからのプレゼントだなって」

……それって。

潤さん……。

……私があげたから?

だから、大事にしてくれているの?

どんどん言葉にならない気持ちが込み上げて。

胸にあたたかいものが広がっていく。




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