イジワル上司に甘く捕獲されました
「ちょっ、美羽ちゃん?
泣かないでっ」

焦る桔梗さんの声に。

我に返った。

私の頬にあたたかい涙がつたっていた。

……潤さん。

……私を想ってくれていた?

「もう、桔梗くん。
何回、橘さんを泣かせてるわけ?」

呆れ顔の峰岸さんに。

私はふるふると首を振る。

「……違うんです、峰岸さん。
スミマセン……桔梗さんは悪くないんです。
私が、私が……嬉しくて……潤さんが、そんな風にボールペンを使っていてくれているなんて思いもしなくて……」

そう、思わなかった。

もう私がいることはできない場所で。

私の存在を認めるように。

大切にしてくれていたなんて。

私、私。

……潤さんの心の中にちゃんと……いるんだよね?

峰岸さんはフッと綺麗な唇の口角をあげて。

「……やだ。
まさか不安だったの、橘さん?」

いつもより少し優しい声音で言った。

その言葉に、私はハッとする。

そして堰を切ったように涙が溢れだした。

こらえていたものが一気に流れ出すように。

桔梗さんは。

「うわっ、美羽ちゃんっ。
おい、峰岸、何してんだよっ」

と、一人バタバタ焦っていたけれど。

峰岸さんは落ち着いたもので。

「……いいじゃない。
今は閉店時間過ぎているんだし。
私達しかいないんだし。
泣かせてあげるのも元上司の役目なの」

と、至極冷静に返していた。

しばらく泣き続ける私を。

居心地が悪そうにウロウロしながら私を見つめる桔梗さんを尻目に峰岸さんは黙ってソファに座っていた。

私の涙が落ち着いてくると。

峰岸さんは私をじっと見つめて微笑んだ。

「……大丈夫かしら?」

「はい、スミマセン……みっともない姿を」

気持ちがこらえられなかったとはいえ、元上司の前でいい大人が号泣してしまうなんて。

恥ずかしいを通り越して情けない……そう、項垂れる私に。

「気にしなくていいわ。
仕事の質問はさっき、終わったもの。
今は精神的なプライベートな時間、と私は思っているから」

アッサリと言い放った。

桔梗さんは黙って曖昧な笑顔を私に見せてくれた。

「……そんな風に気持ちを表現できるあなただから瀬尾くんは好きになったんだと思うわ。
……少なくとも私にはできないから」

少し寂しそうな笑顔で私に話しかける峰岸さんはどこか……切なそうだった。

「あなたに見せたいものがあるのよ」

そう言って自身のスマートフォンを鞄から取り出して私にある写真を見せてくれた。








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