イジワル上司に甘く捕獲されました
再び歩き出して、クリーニング屋さんの前に差し掛かった時。

私を起こしてくれた美形男性がクリーニング屋さんから出てきた。

自宅が近いのか、クリーニングを終えたハンガーワイシャツを数枚抱えている。

彼は私に気が付いて、軽く目を細めて無言でまた前を歩き出した。

私は特に声もかけずに真央から聞いた道を歩く。

もう数歩でマンションのエントランスだと言う場所で、彼が振り返った。

「……アンタいつまで付いてくる気?」

低い、苛立ちのこもった声をかけられる。

「え?」

キョトンとする私に。

「アンタからの礼は聞いたし、付いてくる必要ないだろ。
まだ何か用があるのか?」

面倒臭そうに私を見下ろす。

そこまで言われて私はハッと気付く。

ま、まさか……。

私、この人の後をつけてると思われてる?

聞くまでもなく彼の不機嫌そうな表情を見れば一目瞭然で。

「ち、違いますっ。
後をつけたりしてません!
わ、私のマンション、ここなんですっ!」

思わず前方のマンションを指差すと。

まだ疑っているのか彼は無言で目を細める。

……綺麗な顔をした男性はどんな表情でも絵になるけれどこの誤解は酷すぎる。

私は鞄から取り出した鍵を彼の目の前に出す。

すると。

驚いたのか、彼は一瞬目を見開いて、それからはあっと大きな溜め息をひとつ吐いた。
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