イジワル上司に甘く捕獲されました
「もしもし、美羽ちゃんっ?」

耳に押しあてたスマートフォンから聞こえてきた声は真央。

「大丈夫?
今どこ?
迷っていない?」

心配そうな真央の声に。

「大丈夫、ちゃんと着いたよ。
今、空港バスを降りて……ええと、コーヒーショップの前にいるの」

寝入ってしまっていたことは真央には黙っておく。

「コーヒーショップ?
もしかしてコンビニの隣の?」

「ウン」

「良かったっ。
マンション、すぐ近くよ!
コンビニを通りすぎて真ん前の交差点を渡って右に曲がって」

どうやら心配して道案内をしてくれている真央。

「えっ、真央、ちょ、ちょっと待って……交差点、あ、ここを渡るのね、うん、渡って曲がったよ」

ちょうど青信号だった交差点を急いで渡る。

「そこから直進して、クリーニング屋さんを通りすぎて、三つ目の角に建っているマンションだよ、そこから見えない?
ベージュの背が高い建物」

私は背伸びをして、目を凝らす。

こういうとき、百五十五センチの身長ではなかなか不便。

今日はスニーカーを履いているから底上げもできず。

それでも精一杯背伸びをしたおかげか、それらしき建物が前方に見えて。

「あ、わかった!
見えたよ、真央」

「よかった、じゃ、気をつけてね?
鍵はちゃんと持ってるよね?」

どこまでも心配してくれる真央に。

「大丈夫、大丈夫、ちゃんと持ってるよ。
ありがとう」

元々、真央が叔母さんの家に引っ越した時に預かっていたスペアキーを鞄から取り出して確認する。

「私、今からまた研修会に戻るけど、何かあったら連絡してね?」

私に念押しをして真央は通話を切った。



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