イジワル上司に甘く捕獲されました
でも。

気付きたくはなかった。

重い足を無理矢理、前に進める。

だって絶対に叶わない。

たまたま同じ支店で上司でご近所だった。

ただそれだけ。

物理的な距離がどんなに近くても心理的な距離はとても遠い。

瀬尾さんは立派な大人の男性だ。

誰もが振り返るようなとびきり整った外見だけではなくて。

一人暮らしすら両親に心配されて、真央がいないと不安で、寂しがっている子どもみたいな私とは全く違う。

仕事をしっかりこなして。

部下の管理もしっかりして。

きちんと生活をしている。

そんな立派な人だ。

瀬尾さんから見たらまだまだヒヨッコな私は相手にしてもらえない。

……自分の気持ちに気付いたのに。

気持ちを認めることができたのに。

後ろ向きにしかなれないなんて。

何処までもお粗末だ。

気持ちを伝えることは絶対にできない。

そんなことをしたら。

部下、の場所もご近所さん、の場所も失ってしまう。

下手に告白をして気まずくなんてなりたくない。

普通に瀬尾さんと話すこともきっと出来なくなってしまう。

だとしたら私にできることは。

ただ、いつも通りに振る舞うだけだ。



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