黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
「地獄の騎士です」
フィリーはパニックに陥った。
ギルバートが戦場にいる。
連れ戻したのは自分だ。
誰よりも遠ざけたかった人なのに。
「なるほど。たしかに引き渡しの砦で姿を見なかった。だが、なんのために? 王女を人質に交渉を持ちかけてきたのはあの男だぞ。いずれにしろ、地獄の騎士が相手ではこちらの損失が心配だ。いったいいくつ部隊を潰されたか覚えているか、師団長」
ロジャーが答えに詰まり、忌々しそうに唸る。
マリウスが震えるフィリーをじっと見つめた。
ドアを開け、フィリーの腕を掴む。
「僕と一緒に来るんだ」
「い、いや! やめて!」
フィリーは座席に爪を立てて抵抗した。
ギルバートの前へ連れ出されれば、なにが起こるかはわかりきっている。
決して出会ってはいけない。
ずっとそうだった。
マリウスが馬車の外から力いっぱいフィリーを引きずる。
「地獄の騎士はきみのために来たんだろう。あの男を死なせたいか。きみが止めなければ、どんなに兵士を減らされようと最後に倒れるのはあの男だ」
フィリーは涙を堪えてマリウスを見返した。
考えろ、考えなくては。
ギルバートを守れる方法を選ぶのだ。
フィリーは内側のドアハンドルを強く握りしめる。