黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
29.
やっと見つけた。
ギルバートはそこら中に肩をぶつけながら、岩と波の洞窟の中を走った。
オスカーが灯りを手にすぐうしろを追いかける。
暗くて狭い空洞を突き進んだ先に、ぐったりと岩壁に寄りかかる小柄な亜麻色の髪の女が見えた。
立っている力も尽き、岩の隙間に崩れ落ちて、胸まで湖水に浸かっている。
「フィリー!」
ギルバートはフィリーに駆け寄って水の中から引き上げ、冷たい身体を抱きしめた。
震える背中をさすり、黒いマントで包み込む。
額に落ちる髪を優しく払って囁いた。
「だいじょうぶ、もう帰ろう。怖かったな。待たせて悪かった」
意識が朦朧としているのか、フィリーは目を開けない。
オスカーが腰まで上がってくる水位を見て、ギルバートを急かした。
「ギル、すぐに引き返さないと。どんどん水が流れ込んでくる」
ギルバートはフィリーをつないでいた真新しい鎖を叩き壊し、洞窟から連れ出した。
出入口の付近はもうほとんど水に塞がれている。
ギルバートたちがフィリーと一緒に戻って来ると、ハーヴェイは安堵のため息を吐いた。
ゾフィが涙に濡れた顔を両手で覆う。
ギルバートは腕の中で力なく青ざめたフィリーを見下ろした。
小さく息はしているが、肌は氷のようで、こうしているうちにもどんどん熱が失われていく。
一刻も早く身体を温め、医者に見せなければ。