黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい

長いまつ毛が頬骨に暗い影を落とし、気難しそうな口元には年月が刻ませたシワが見える。
整えられたダークブラウンの髪には一糸の乱れもない。

深緑色のジュストコールには金糸の装飾が施され、靴は爪先まで磨き上げられている。

ドレバス卿がフィリーの翠色の目をじっと覗き込んだ。

頬にかかる亜麻色のおくれ毛、華奢な胸元のチョーカー、子猫さえ抱いたこともないようなほっそりとした手を見て、謎めいた笑みを浮かべる。

「きみのような美しい娘が我がブラインにいたとは知らなかった。領地へ戻ったら、すぐに私の屋敷にも招待しよう。もちろんきみの家族も一緒だ」

フィリーは困惑してリチャードを見上げた。
なんと答えたらいいのかわからない。

「光栄なことだ、フィリー」

リチャードに促され、フィリーはおずおずと微笑み返し、頷いた。

本当は、握られた手を引き抜いて背中に隠してしまいたい。
指先が震え、緊張がゆっくりと背筋を上ってくる。

冷たくなるフィリーの手を慰めるように、ドレバス卿が目尻を下げた。

「気を張っているな、怖がることはない。せっかく舞踏会に招待されたのだから、ダンスでも踊ろうか」

「い、いいえ!」

腕を強く引っ張られ、フィリーは慌てて首を振った。
ドレバス卿が目を丸くして驚いている。

思った以上に大きな声が出てしまったので、フィリーは恥じらって頬を染めた。

「あの、申し訳ございません。ダンスは……踊れません」

周囲に滑稽さを憐むような忍び笑いが広がる。
どんなに美しく着飾っても、フィリーはフリムラン貴族にはなれない。
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