黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
黒い髪に氷の色の目をした背の高い騎士は、匂い立つくらいに危険で美しい。
ギルバートに見つめられるとき、初めてフィリーの心臓も動いているのだとわかる。
なにもかもが夢のように優麗な世界で、ギルバートだけが現実の形をしていた。
フィリーはたった今になって、ギルバートの隣にくつろいだ雰囲気で立っている男が、オスカーだということに気がついた。
色鮮やかに着飾った令嬢たちがふたりの騎士に近づき、取り囲む。
オスカーは愛想よく気楽に微笑んだ。
薄紫色のドレスを着たきれいな娘が、仏頂面でフィリーを睨んでいるギルバートの肘に細い腕をかけ、振り向かせる。
ふと、リチャードの手のひらが僅かに強張った。
「そうだ、彼にきみを紹介しなくてはならない」
フィリーはハッとしてギルバートから目を逸らす。
次に国王の前に立った男は、右手のグローブを外し、左足をうしろに引いて、深く頭を垂れた。
男がゆっくりと顔を上げると、リチャードが満足そうに頷く。
「ドレバス侯爵、ぜひあなたに彼女をご紹介したい。黒旗騎士団のキール伯爵が、解放の証にブラインから招待した町娘のフィリーだ。フィリー、彼はきみの出身地ブラインを含め、西の領地一帯を治めるドレバス侯爵だ。私の親戚でもある」
「まあ!」
フィリーは両手で翠色のスカートを持ち上げ、深々と膝を曲げた。
「お会いできて大変光栄です、マイ・ロード」
頭を上げるより早く、ドレバス卿がフィリーの左手を掬い上げる。
「顔をよく見せてくれ」
ドレバス卿は濁ったシルバーグレイの目をしていた。