ある日、ビルの中、王子様に囚われました。


時は流れて一カ月。
その日は朝食を食べながら、ちょっとだけ天宮さんは拗ねていた。

「早く食べてくださいよ」

天宮さんリクエストのもやしのナムル、もやしとウインナーの中華炒めと朝食にしては首を傾げるメニューなのだけど、それが拗ねている理由ではない。

「……俺の婚約者に何度もうちの会社の秘書に来ないかと打診してるのだが、断られるんです。どうしてでしょうか」

天宮さんのマンションからは今の仕事場は駅一つで、バスで済む。
それに奨学金を返す時にガンガン仕事入れてもらえるようにお世話をしてもらった仕事場だし止める理由はない。逆に返したから転職だなんて相手の親切に対して不義理だし。

「またホテルに浚ってしまおうかな」

箸でつまんだモヤシを見つめながら、恋煩いしている少女のようにため息を吐く。
その作戦には乗らない。
そうやって悲しい顔してこっちの良心を抉ってくる作戦に、この一カ月散々騙されてきたんだから、もう乗らない。


< 83 / 85 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop