私を作る、おいしいレシピ

「卒業かぁ……」


しんみりした言葉は、私たちの胸に切ない余韻を残す。

卒業したら離れ離れだ。

酒田くんは実家の手伝い。
イチくんは調理学校に行きながら、レストランで下働きをするのだそう。

私は、夜学の経理専門学校に通いながら、事務の仕事をする。

とにかく早く家から出たくて、就職先はここから一時間かかるところを選んだ。
しばらくは、ふたりともお別れかな、と思う。


「まあまたコンビニ来いよ。俺はいつもあそこにいるし」


酒田くんがにかっと笑う。そして、「あーあ。卒業したくねーな」なんてため息をついた。


「うん。会いに行くよ」

「俺も」


イチくんも今日は言葉少なに、卒業証書の入った筒で肩をたたいている。


「お前は料理人になったら俺たちのこと招待しろよな」

「おう、もちろんだぜ」


そのまま、私たちは旧校舎に向かった。

初めて、ここでふたりに会った時の事。
毎日食べた温かいご飯。
思い出すだけで、胸が温かくなって自然に笑ってしまう。


「ふたりに会えて、良かった」


素直な言葉が、自然に出てくる。
それは、一年前の私にはできなかったこと。

私には今までずっと、愛情が足りなかったんだと思う。

東條瑞菜という人間のレシピにはきっと必要だったのに、私の両親はそれを私にくれなかった。

だから、私は嘘つきの、自分で自分を愛せない子供にしかなれなかった。

でも今は違う。
彼らがくれたあったかいご飯は、私を温め、たくさんの栄養をくれた。

ふたりが一緒にいてくれたから、私はきっと、ちゃんと“私”になれたんだと思う。
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