副社長と愛され同居はじめます
成瀬さんは今夜も、この店で一人異彩を放つ。


上等の酒を片手に、さして欲しくもなさそうなフルーツの盛り合わせやチーズをテーブルに並べ。
私の顔を見ても、余り表情は動かない。


会いたくて会いに来てるわけでも無さそうで、何の為にこんなことをしてるのか未だに理解に苦しむ。
かといって、答えが出ないままひと月が経過し、この状況に私も慣れてきているのは確かで。


接客とは言い難い、それでいて友達や恋人とも言い難い、軽口トークが成瀬さんとの間には定着していた。



「今日はお仕事はいかがでしたか」

「仕事の話をして理解できるのか」

「わかりませんけど、大変だったのかなーって、それだけです。目の下に少しクマがあるので」



なんでそう、無駄に嫌味な言い方するのかしら。
いや、やたら淡々としているから嫌味だとも気付いてないのかもしれない。


だとしたら結構、痛い人なんじゃないかしら。



「……こはるこそ、少し顔色が悪い。寝不足だろう」

「誰のせいだかわかってて言ってますよね?」



成瀬さんのせいで出勤が増えて、慢性的に寝不足になりつつあるんですよ!
そして成瀬さんだって、本当ならさっさと家に帰って疲労回復に努めたほうがいいんじゃないかと思うのですよ!


話が弾むこともないので、話すことと言えば「疲れてるんじゃないですか」とか「お仕事大変ですか」とかそんなことばかりで、おかげで彼の顔色の変化には少し敏感になった。



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