副社長と愛され同居はじめます
十一時を過ぎて、成瀬さんと一緒に店を出る。
月曜火曜は早上がりさせてもらうから、その日は成瀬さんの車で送ってもらうことが習慣になっていた。


店の後、お客さんと一緒に食事なんかに連れていってもらうことをアフターというらしいけど、私はいつも真直ぐアパートにただ送られるだけ。
ゆったりと広い後部シートに二人で座る、この違和感しかない空間にも緊張はしなくなってきたから慣れってすごい。



「あの。今日も真直ぐ、うちですか?」

「ん? 腹が減ってるならどこかに寄ろうか」

「いえ……そういうわけではないんですけど」



空いてるといえば空いてるけれど、「お食事に行きたぁい」とおねだりしたいわけじゃなくて。
アフター、というものの意味を考えると、こうしてただ送られているだけでいいのかと、少し気が引ける。


言いよどむと、前を向いていた彼の目が私を向いた。



「何? 言いたいことがあれば言えばいい」

「真直ぐ送っていただくだけでいいのかなと……アフターなんかの見返りを期待するわけでもなく、私に会いに店に通う意味がわからなくて」


ぶっちゃけると、食事だけのデートじゃなくその後ホテルに、なんて下心が大半の人にはあると思う。


なのに私は何も要求されずただ帰るだけ。
そりゃ、成瀬さんなら女なんて苦労せずに選び放題だろうけど、だとしたらやっぱりおかしい。
目的のわからない施しほど怖いものはない。


と、失礼にもストレートに尋ねるわけにはいかないので、ちょっとオブラートに包んで遠回しに言ったつもりだった。
だけど、その直後だった。



「……ああ、なるほど」



彼の表情が、急に艶めいた。

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